「片腕がないから見えてくる身体」
2022.7.5 / バランスコラム
ハンセル・エマニュエル( Hansel Enmanuel )さんを知っていますか。2004年ドミニカ生まれで、まだティーンエイジャーの、アメリカで活躍するバスケットボール選手です。すらりと伸びたしなやかな身体から素晴らしいパフォーマンスを発揮する彼の姿は、YouTube で見ることができます。ぜひご覧ください。
ハンセル・エマニュエル選手のプレー動画
見ていただければすぐおわかりのように、片腕のみでプレーしています。彼は「隻腕のバスケ選手」なのです。6歳というまだ幼い時期に、事故によって左腕を失ったとのことです。
しかし、そのような身体的ハンディキャップをまるで感じさせることなく、ごくあたりまえのことのようにトップレベルのプレイヤーたちと同じコートに立ち、鋭くドリブルし、スティールし、スリーポイントシュートを放ち、ダンクを決めています。
その素晴らしいパフォーマンスぶりから学ぶべきことが、わたしたちにはたくさんあります。今回のコラムでは、隻腕のバスケットボールプレーヤーであるハンセル・エマニュエル選手から感じられるバランス的視点をお伝えします。
さて、ハンセル・エマニュエル選手について注目すべきことのひとつは、その身体の使い方です。左腕がない分、いやないからこそ、ほかの部位を実に上手に活用しているのがわかります。つまり、身体をひとつの全体としてうまく使いこなしているのです。
バスケの基本動作となるフロントチェンジやクロスオーバーなどのハンドリングが、左腕のない彼にはできません。できないがゆえに「身体全部を使いこなすことで左腕の役割を果たす」ということができるようになったのです。レッグスルーの動きなどもまるで両腕でやっているかのように見事です。
重要なことは彼が「左腕がない」ことではなく、「いまあるもの」にフォーカスし、生かしているという点です。ハンセル・エマニュエル選手は「バスケットボールを楽しむために、いまあるものでどううまくやれるか?」という思考に基づいたさまざまな工夫を地道に積み重ねてきたはずです。
片腕しかない状況でより良くパフォーマンスするために積み重ねてきた創意工夫は、彼がひとりで探し、見つけたものに違いありません。参考モデルがそもそもないからです。他者と比較するのではないそのプロセスがあったからこそ、誰にも真似できないオリジナリティ溢れる動きを獲得できたのでしょう。
ふつうわたしたちは「ない」ことに執着しがちです。けれども、執着を手放し、「ないものはないのだから、あるものを見ていこう」という方向に進むと、「ないからこそ見えてくる」ものがいっぱいあるのです。そこに大きな可能性があることをハンセル・エマニュエル選手から感じ取ることができるのです。
つづく