「緊張しすぎてもダメですが、僕はある程度緊張したほうが打てるんです」
(『長嶋はバカじゃない』小林信也・草思社・2000年刊/P67より)
2022.3.24 / バランスコラム
たとえば、バランスボードは、ラクに乗りすぎるとうまくいきません。ある程度の構えとか、ある種の緊張がないと、反射も起こってきません。獲物を狙う野生生物のように、慎重に、でも自然体で、ちょっと緊張もありながら、ガブっといくような…。そんな感じが理想です。
能力を発揮するためには、安心やリラックスだけでは足りません。要件として不十分なのです。ある種の不安感とか緊張感というのも要素として持っていないと、能力は発揮されにくいのです。緊張しすぎはダメですが、緊張がないのもダメなのです。
アスリート選手には「『不安をなくしたい』だなんて思わなくていいですよ」とアドバイスします。ある程度の不安や緊張を持っていたほうが能力を発揮できるからです。不安や恐怖を持ちながらのほうが、かえって瞬時に全速力で走りだして逃げだせる…。野生動物のパフォーマンスと一緒です。
長嶋茂雄さんの言葉は「科学的じゃない」と批判されもしますが、わたしはむしろ科学的だと感じます。それは、常にじぶんを検証しているから。自然体ってどうなんだろうとか、軽く緊張してるほうがいいとか、いつも自ら検証しています。それってすごく科学的な態度ですよね。
野球を通してじぶんを常に検証した科学のひと、それが長嶋茂雄さんなのだと思います。どんなに優れたアスリートも、やがては形骸化したフォームや練習を続けてしまったり、ジンクスに頼ってしまったりして、検証をやめてしまうものですが、長嶋さんはそうはならなかった…、稀有なひとだと思います。
今回改めて長嶋茂雄さんという伝説の人の言葉を追ってみて、稀代のパフォーマーであった理由がわかった気がします。常にゼロベースで、自然体を真ん中においていて、身体の声を信じていた…。こういう人なら優れたパフォーマンスをするはず、と納得がいきました。
個人的には、若き日の長嶋茂雄さんと同時代を生きたわけではありませんが、長嶋さんが残してくれた言葉から滲み出す身体観や、パフォーマーとしての真髄は、どんな時代になろうと古くなることはないはずです。ぜひ皆さんも長嶋さんの言葉、読んでみてください。
おわり